DISC REVIEW

FRANZ LISZT (1811-1886)
TRANSCENDTAL STUDIES / MEPHISTO WALTZ NO.1

DIMITRIS SGOUROS, piano

Recording 1984 / EMI


いつだったかNHKの番組で、音楽CDの寿命は約20年ぐらい(多分)だと言っていた。これにはショックだった。CDは半永久的に使えるものだと思っていたのだが、実はそうでもなく、レコードよりも寿命が短いらしい。つまり磁気データ自体は論理的には永久的だが、それを「入れている」物理的なディスクは劣化しやすいということだ。

考えてみればあたりまえのことで、ディスクを破損したりしたら再生出来なくなるのは当然だろう。ただ問題は、不注意で破損することではなくて、「自然劣化」という避け難い「寿命」のことなんだなあ。
幸い(番組でも紹介されていたが)、今はCD−Rがあるので、古いCDを焼いておこうと思った。

まあ、自分の持っている古いCDでも、いわゆる名演奏として「認知」されているものやスター級のアーティストの録音は、何度も再発売をしているし、今後も多分出るだろう。そういうのは後回し(リマスターされたやつを買い直せばいいかな)。

それで、これはちょっと再発売しなさそうだな、と思うものをチョイスしていたら、最近全然聴いていなかったけれども、久しぶりに聴いて良かったものがいくつかあった。このスグロスのリストも、そんな一枚だ。

ディミトリス・スグロス。1969年アテネ生まれ。今はどこでどうしているんだろう? 彼もまた神童の名を欲しいままにしたピアニストであった。12歳のときにロストロポービッチ指揮でカーネギー・ホールデビュー。曲は、あのラフマニノフの3番コンチェルト。最難曲の一つだ。

そして、このCDではリストの『超絶技巧練習曲』(抜粋)と『メフィスト・ワルツ1番』を演奏している。このとき彼は14歳。
それで演奏は…というと、確かに『超絶技巧練習曲』では、僕が一番気に入っているアシュケナージ盤(奇しくも選曲が全く同じ)とセカンド・チョイスのアラウ盤に比べたら、どうも荒削りで、一本調子の感が拭えない。それどころか、このスグロス盤を聴くと、逆にアシュケナージの技巧、センスの素晴らしさ、アラウの老獪な表現力がより際立って感じられてしまう。

しかし、このスグロスのメリハリのあるスポーティな演奏も、これでなかなか楽しめる。ベルマンほと聴いていて疲れないし、ボレットよりキレがある。『超絶技巧練習曲』の中で一番好きな10番ヘ短調も、陰影豊かなアシュケナージ、アラウと違って「ノーテンキ」にバリバリと弾きまくっている。まさに「体育会系」ピアニズム!
ここまで活きが良いと、「音楽性」がどうのこうのと論じることが「無粋」に思えてくる。それに『鬼火』のキラめく技巧の冴え、『狩』でのピアノに挑むようなアグレッシブな弾きっぷりは、見事!と言う他にない。

肉体あっての頭脳、そんなあたりまえのことを思い出させてくれた。とにかく感覚的に充分楽しめる演奏である。『メフィスト・ワルツ1番』もまったく胸のすく快演だ!